木曜日, 9月 11, 2008
文楽 - 狐火と猿廻し
9月の文楽公演を見に行った。
今回の演目は、「近頃河原の達引」と「本朝廿四孝」から「十種香の段」と「奥庭狐火の段」だった。
住太夫さんは近頃河原~の猿廻しの段に登場された。
今回は面白いことに近頃~のほうには、2匹のおサルたち、奥庭狐火~のほうにはきつねさんたちが出てきたので動物シリーズといった感じ。
近頃河原~のお話は、横恋慕の末に難癖つけられた相手を殺してしまった旦那と遊女が心中せずに、親の助言である「何があっても生き延びて~」という思いを胸に旅立っていく。その二人を、遊女の兄である猿廻しの与次郎とサル達が踊って見送るというもの。
あらすじを聞くと無茶苦茶だけれど、昔ならこんな理由で人情沙汰もあったんだろうと思う。
切捨て御免なんていう制度もあったわけだし。
解説を見ると、実際の話があり、それによると二人は実は心中したようである。
そこを人形浄瑠璃では、大事な親の忠告を守り、二人を生かして旅立たせ、最後は楽しい猿廻しで締め括るわけである。ただし、次の段では心中するのかもしれないが・・・
浄瑠璃のネタも当時の週刊誌ネタか過去のヒーローものが多い。実際にあった話を脚色するわけだ。
そういう話が一番、町人には面白いし人気があったのだろう。
最後に二人の門出を祝うおサルが2匹出てくるのだが、一人の人形使いの2匹を操る。
これがなかなか、軽妙というか右、左、上、下と両手で使い分けるのだから、大変な技がいると思ったが、見ていてかわいらしい。
「本朝廿四孝」は、謙信と信玄の争いの中でお話だが、謙信の娘、八重垣姫と信玄の息子勝頼のラブストーリーを中心に進んでいく。面白いのは一度も会ったことがなく、許婚といわれた勝頼の絵姿を毎日見ている八重垣姫が、死んだと思った勝頼そっくりの花師に会い、(実は死んだのは偽者で本当の勝頼)、あなたでもいい、なんて詰め寄る。
でもうすうす、本物ではないか気がつき一途に訴えると、隠し通せない男勝頼は、本物であることを認める。
もともと花師として隠れて謙信の周りを探っていた勝頼を謙信は実は勝頼と見破るが、知らないふりをして「信玄への使いとして、花師である勝頼を登用する。そこで花師としては不釣合いなりっぱな格好が妙に似合っていたので、姫も勝頼と見破ってしまったのだ。死んだと思った許婚が生きていたわけだから、姫は大感激!
幸せもつかの間、使いとして旅立ってしまう勝頼。
でも、謙信の謀略を知り、彼を殺そうとする追手が近づいていることを知らせるために、諏訪大明神に頼む。
すると、その使いとしての狐が現れて、姫を助けて遠い道のりを知らせにいくわけである。
姫が願いをかけると狐火といって火の玉がゆらめいたり、なぜか姫が狐のようなしぐさをしたりと怪しい様相になってくる。
ちょうどこの日は、人形使いの五世豊松清十郎の襲名披露の口上があったが、彼の八重垣姫は素晴らしかった。特に場面、場面での彼自身の早代わりがたくさんあり、あっという間に裃と着物の色が変わっていたり、と見せ場の多いものだった。
やはり最後に狐が勢ぞろいするところは圧巻、たくさんの狐に守護されながら氷の張った諏訪湖を渡って知らせにいく。
両親が蓼科に住んでいるので、諏訪湖については親しみ深い。
諏訪湖に氷が張ると神渡り(みわたり)という神事があり、諏訪神社から神様をお連れする神事が行われる。まさにこの場面を思い浮かべ、狐と一緒にわたる八重垣姫を思うのである。
それにしても八重垣姫の思い、女の念はすごいと思う。
もともと会ったことがなく絵姿だけを思い焦がれていた訳だから余計に執念が強くなるというのか、本物に会ったら最後、神を頼り、狐の導きとともに男を助けに行くわけである。
人の思いは何事をも越えることができるのだ ・・・・ ここでは人形さんだけど。
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